ハイレゾ化をアナログマスター音源から科学的に考察する

 人の可聴域はよく言われるように「20Hzから20kHz」とされています。
これはかなり昔から定義されていたためか、アナログレコード時代のオーディオ機器のスペックも最低限はこれらを満たす規格に準じています。

この記事を読むと、次の事が理解できます。

  1. アナログレコード全盛時代のサウンド収録~レコード作成プロセス
  2. プロセス上、デジタル化のマスターとして利用可能な音源
  3. リマスターでHi-Res化する意味と魅力、レコードの魅力

「アナログレコード時代」の機器スペックを考察する

「アナログレコード時代」の各プロセスで利用された機器スペックから「収録された音源の特性」を把握し、現時点で再マスタリングやハイレゾ化の音源としての魅力度を理解します。

マイクロフォン

ボーカルやアコースティック楽器の収録は勿論、エレクトリック系のスピーカーからの音声収録でも利用しています。ダイナミック型・コンデンサー型以外にもリボン型も存在しますが、コンデンサータイプは48V給電の関係もあり「マイクプリアンプ・チャンネルストリップ」経由の運用も多くあります。現在でも収録別に(音の特性や音量や収音方法向け)に特徴と得意分野があり、最適な機材構成で収録されています。
 機器の電気的な特性に大きなバラツキはありませんが、音色にはそれぞれ特徴が存在し、むしろ積極的にミキシング上の音作りがされる傾向はあります。

マイクロフォン:一般的な周波数特性:20Hz-20kHz~25kHZ
ダイアフラム=スモール:20Hz-40kHz

コンソールミキサーやチャンネルストリップ等

 ミキシングコンソール環境は、音質劣化に対してシビアな設計が要求された事もあり(数十チャンネル以上のプリアンプが動作する環境を考えれば)、SN比やダイナミックレンジ・周波性特性を含め技術的に考慮されてきた機器が多く存在します。また、外部の接続機器類も同様ですが、経年や温度・湿気や通電による電子部品の状態変化などのシビアーな問題に対して、優秀なエンジニアも活躍していたと思われます。
 現在ではデジタルコンソールのシェアが拡大していますが、コンソールによる音の違いはアナログ時代同様に存在します。SSL等の優れたアナログコンソールの音は現在でも多くの支持者が存在します。

周波数特性:20Hz〜50kHz等(参考値:スタジオ用の機器)

業務用オープンリール・マスタテープマシン

 ステレオ時代以降は、業務用のオープンリールテープ装置にマスター収録するスタイルが標準となりました。つまり、レコードへのダイレクトカッティング(一発取り)は明示的にする以外にはなくなり、マルチトラックレコーディングのスタイルが確立したと言えます。

周波数特性 2トラック38cm/s ,76cm/s : 30Hz~30kHz±2dB(20Hz~40kHz)、テープ1インチ・2インチ
(参考値:製造時期とメーカー、グレードにより異なる)

カッティングマシン(レコード原盤用)

 まず最初に、レコードのRIAAカーブ(その他のNABカーブ等もあるが)についての概略ですが、原音のままマスターカッティングをしておらず、低域側を規格に沿って減衰させています。これは電気信号を機械的な振幅としてレコードの溝を切る構造の為、振幅の幅が大きくなり隣接する音の溝への影響を抑える為とされています。逆にもともと振幅の小さい最高音域は確実にカッティングできるレベルに増幅されて記録されています。
 再生時には記録時に適用した補正「RIAAカーブ」の再生側補正(逆補正)をし、元の平坦な特性に戻す処理を実施します。

 マスター音源は、RIAA補正後に「レコード原盤」がカッティングマシンにより作成されるが、マスタ音源に20,000Hzを超える倍音が含まれる場合にも、全てを記録する事が可能です。但し、カッターヘッドのコイルの焼損防止用(継続した過剰な高周波による加熱防止)のリミッターが存在する機種もあり、レコードの見た目での周波数特性の判断は難しいと言えます。

レコードカートリッジ

レコードカートリッジ
高級カートリッジの再生周波数は「5Hz-120,000Hz、チャンネルセパレーション35db」のスペックを誇るものもあります。
もっとも、MCカートリッジの場合には「昇圧トランス」や「ヘッドアンプ」により元の信号を増幅させる必要がありますので、これらの電気的な特性も考慮して評価が必要です。
レコード固有の課題としては、

  • 外周と内周で特性が異なる
  • 回転数でも特性が異なる
  • チャンネルセパレーション(左右の音の分離性能)が低い
  • スクラッチノイズは「0」にはならない
  • 聴けば聴くほど、レコードの溝が削られる(音の変化に繋がる)
  • ワウフラッター(高級機の場合は大分改善されているが)

アナログレコードをデジタル化しても、溝が減る事以外の固有の課題を解決できない場合は引きずる事になります。

プリ・パワーアンプ

メーカーやグレードによる差はありますが、特に売れ筋ゾーン~ハイエンドの機器では概ね数値は良好で、ハイレゾ領域をクリアします。

プリアンプ:参考値
C280L CD、Tuner、Line、Tape Play: 1.0Hz~350kHz +0 -3.0dB
パワーアンプ:参考値
P800 0.5Hz~150kHz +0 -3.0dB(1W出力時、レベルコントロールMAX)

プロセス上の最適なマスター位置は?

 アナログレコード全盛時代のスタジオ機器の特性を調査すると、グレードが高い機材であれば現在でも通用する高い性能が実現されている事がわかります。

プロセス上のボトルネックになり得るのは?

 現在でも同様に特性に影響がある領域はあると思いますが、「Multitrack Recording」のマスターテープからレコードを作成する「カッティングマシン」には、当時の資料にも高音側リミッターによる周波数の制御が記載されている機械が存在し、実際に利用されていた可能性があります。
その制限により20kHz以上の周波数が減衰していると仮定すると、マスターテープ時点の音質が最も特性が良いことになります。

マスターテープに録音されている音質は、それ以前の録音プロセスがそのまま反映している
可能性が高く、周波数的にもハイレゾ化の対象になり得る。

なお、ダイナミックレンジやSN比の要素で見ても、マスターテープを基にしたデジタル化が最も最適と言えると思います。

アナログマスター音源の科学的考察のまとめ

  1. アナログレコード全盛時代のサウンドでも、マスターテープ音源をハイレゾ化する事で、高音質な音源として楽しめる魅力があると言えます。
  2. レコードの音質性能は、当時のカッティングマシンの設定制限や、レコード自体の様々な制限や制約もある事を理解する必要はあります。しかしレコード自体からデジタル化する事でも、好きなアーティストの楽曲の持ち出しやリスニングの圧倒的な自由度が得られます。
  3. レコードの新たな新盤は少なく、既存のレコード自体が非常に希少です。その大切なお宝にもなり得る”レコード”を、最高の音で楽しむ為のオーディオ探求にも挑戦したいですね。
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